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電帳法対応、プロダクトとして「何ができていれば対応済み」と言えるのか

守らなければならない要件 ── 真実性 × 可視性

守らなければならない要件 ── 真実性 × 可視性

ここから、③ 電子取引データ保存(義務)を中心に、満たすべき要件を見ていきます。要件は 真実性の確保可視性の確保 の 2 軸で整理できます。プロダクト実装の選択肢もこの 2 軸で並べると整理しやすくなります。

真実性の確保(4 択から 1 つ以上)

「保存されているデータが改ざんされていない」ことを担保する要件です。電帳法施行規則第 4 条第 1 項に、以下の 4 択が定められています。1 つ以上を選べばよい、という設計です。

#方式要旨プロダクト実装の難易度
タイムスタンプ済みの状態で授受取引相手から、すでに認定タイムスタンプが付与されたデータを受け取る低(受け取るだけ)。ただし送信元側が対応している必要
受領後に自社でタイムスタンプを付与受領後、おおむね 7 営業日以内(または最長 2 か月+7 営業日以内)に認定タイムスタンプを付与中。TSA との契約とトークン発行フローの実装が必要
訂正削除履歴が残る/訂正削除できないシステムで授受・保存クラウド上で取引データを授受し、改ざんできない/履歴が残る形で保存中〜高。プロダクト本体の機能で吸収
事務処理規程の整備・運用「正当な理由がない訂正・削除を防止する」社内規程を作って運用低(システム実装は不要)。運用負荷は中

②について:認定タイムスタンプの注意点

「タイムスタンプ」と一口に言っても、電帳法で使えるのは 総務大臣認定の時刻認証業務(認定 TSA)が発行するタイムスタンプ に限られます。一般的なデジタル署名や、自前の時刻記録では要件を満たしません。

補足:日本データ通信協会の「タイムビジネス信頼・安心認定制度」は 令和 6 年(2024 年)3 月で廃止 されています。現在は総務省告示第 146 号「時刻認証業務の認定に関する規程」に基づく総務大臣認定 TSA が使えるタイムスタンプの発行主体です。古い記事には旧制度の話が残っているので注意してください。

③について:プロダクト実装で一番現実的な選択肢

SaaS としてプロダクトに電帳法対応を組み込むなら、③ が最も筋が良いです。

  • ユーザーが訂正・削除しても履歴がすべて残る(バージョン管理)
  • または、ユーザーは物理的に訂正・削除できない(イミュータブルな保存層)

この 2 種類のうちどちらかを満たすシステムで、取引情報の授受と保存の両方 を完結させていれば要件 OK です。重要な制約として、

授受と保存の 両方 を当該システムで行う必要がある

というのがあります。例えば「メールで請求書 PDF を受け取って、後からクラウドストレージに格納する」運用は、授受がメール(履歴管理外)なので ③ では満たせず、別途 ④ の事務処理規程が必要になります。

④について:システムを作りたくない事業者の救済策

中小事業者で「タイムスタンプも履歴管理システムも導入できない」場合、④ の事務処理規程ベースの運用が現実的です。国税庁がサンプル規程 を公開しているので、それをベースに自社用にカスタマイズして運用すれば要件を満たせます。

プロダクトを提供する側としては、「うちはシステムで真実性を担保しているので、御社は ④ の事務処理規程は不要です」と説明できる状態にしておくと、導入企業の運用負荷を下げられます。

可視性の確保(検索 3 要件 + ディスプレイ等)

「保存されているデータを後から見つけられる・読める」ことを担保する要件です。

検索要件(電帳法施行規則第 2 条第 6 項第 5 号)

#要件内容
3 項目検索取引年月日取引金額取引先 を検索条件として設定可能
範囲指定検索日付・金額については、範囲指定(例: 2026/01/01〜2026/03/31)で検索可能
項目組合せ検索2 以上の任意の記録項目を組み合わせた条件設定が可能(AND 検索)

ここで覚えておくべき 重要な代替ルール が 2 つあります。

代替ルール 1:ダウンロード提供で ② ③ が不要になる

税務職員によるダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合、② ③ は不要

つまり、税務調査時に CSV や ZIP で全件提供できるようにしておけば、範囲指定検索や AND 検索の機能を作り込まなくても OK ということです。① の 3 項目検索だけは依然として必要。

代替ルール 2:売上高 5,000 万円以下の事業者は検索機能ごと不要

判定期間に係る基準期間の売上高が 5,000 万円以下、かつダウンロードの求めに応じる前提で、検索機能の確保が全面不要

令和 5 年度改正で 1,000 万円から 5,000 万円に引き上げられました。日本の中小企業の多くがこの枠に入ります。

検索要件の判定フロー

ここまでの代替ルールを 1 枚にまとめると、自社プロダクトに必要な検索機能のレベルが判定できます。

flowchart TD
    Start([電子取引データ保存の<br>検索機能要件])
    Start --> Q1{ターゲット顧客の<br>売上高は5,000万円以下が中心?}

    Q1 -->|Yes| Q2{税務調査時の<br>ダウンロード提供が可能?}
    Q1 -->|No| Q3{ダウンロード提供 または<br>出力書面整理 が可能?}

    Q2 -->|Yes| FREE[検索機能 全部不要<br>※ダウンロード機能だけあればOK]
    Q2 -->|No| MIN1[最低限:3項目検索のみ実装]

    Q3 -->|Yes| MIN2[最低限:3項目検索のみ実装<br>範囲指定・組合せは不要]
    Q3 -->|No| FULL[フル実装:3項目 + 範囲指定 + 組合せ AND]

    style FREE fill:#e8f5e8
    style MIN1 fill:#fff3cd
    style MIN2 fill:#fff3cd
    style FULL fill:#ffe0e0

ここから言えるのは、どんな顧客層を狙うとしても、ダウンロード提供機能(CSV / ZIP のエクスポート)は実装しておくべき ということです。これがあるだけで実装コストが大きく下がります。

ディスプレイ・プリンタ等の備付け

  • 整然とした形式・明瞭な状態で速やかに出力できること
  • 性能・台数の要件は法令上定められていない(普通の業務用 PC で十分)

システム関係書類の備付け

  • 自社開発プログラムを使用する場合、システム概要書・操作説明書等の備付けが必要
  • 市販のクラウドサービスを使う場合は、サービス事業者がマニュアルを提供していれば OK

「優良な電子帳簿」の追加要件(過少申告加算税 5% 軽減)

①の電子帳簿等保存(任意区分)を選んだ事業者向けの上位ステージです。次の 3 要件すべてを満たし、税務署に 事前に届出書を提出 すると、申告漏れに対する過少申告加算税が 5% 軽減 されます。

  1. 訂正削除履歴の保存
  2. 帳簿間の相互関連性
  3. 日付・金額・相手方による検索機能(範囲指定・項目組合せ含む)

注:令和 5 年度改正で対象帳簿が「すべての青色関係帳簿」から、仕訳帳・総勘定元帳+一定の記載事項を持つ帳簿に 限定 されました(2024 年 1 月以降の法定申告期限到来分から)。

個人事業主はこれに加えて、所得税の 青色申告特別控除 65 万円 も適用可能になります。

まとめ

  • 真実性は 4 択(タイムスタンプ系 ×2 / 履歴管理 / 事務処理規程)から 1 つ以上
  • 可視性は 3 項目検索 + 範囲指定 + 組合せ。ただしダウンロード提供/売上高特例で大幅に緩和される
  • ダウンロード提供機能は どの規模の顧客を狙うにしても実装必須 と考えてよい
  • 「優良な電子帳簿」は届出制で過少申告加算税 5% 軽減+ 65 万円控除のおまけ付き

次章では、要件を満たさなかった場合に 何が起きるのか(罰則の実像)を見ていきます。