第4章 AI機能 ── Quick AI・AI Chat・AI Commands・AI Extensions
RaycastにおけるAIの位置づけ
RaycastのCEO Thomas Paul Mannはこう述べた。
「AIはチャットする以上のことをすべきだ」
2023年にAI Chatを追加したとき、Raycastは「既存のチャットツールのフロントエンド」に見えた。しかし2024〜2025年にかけての機能拡張は、別の方向性を指している。
RaycastにおけるAIは「ツールを操作する手段」だ。チャットするのではなく、カレンダーを管理し、ファイルを整理し、GitHubのIssueを作成し、Slackにメッセージを送る。
AI機能の全体像
graph TD
subgraph "Raycast AI機能"
QA["Quick AI<br/>(Tab キー)<br/>素早い質問・Web検索込み"]
AC["AI Chat<br/>(継続的な対話)<br/>ファイル添付・複数モデル比較"]
CMD["AI Commands<br/>(30+プリセット)<br/>選択テキストへの操作"]
EXT["AI Extensions<br/>(エージェント的操作)<br/>外部ツールへの指示"]
end
TEXT[選択中のテキスト] --> CMD
QUESTION[質問・タスク] --> QA
QUESTION --> AC
TOOL[外部ツール操作] --> EXT
Quick AI
⌥ Space でRaycastを開いた後、Tab キーを押すと Quick AI に切り替わる。
特徴:
- AIの回答にWebの最新情報が組み込まれる(Perplexityのような動作)
- 軽量・高速・割り込まない
- 会話は続けない(1ショット回答向き)
典型的な使い方:
「gitのcommitを取り消すコマンドは?」
「RegExで email を検証するパターン」
「円/ドルの現在レート」(Webから取得)
「"idempotent" の意味」
「ブラウザを開いてGoogle検索して結果を読む」という動作を置き換える。Alt+TabでブラウザとIDEを行き来しなくなる。
AI Chat
複数ターンの対話・長文生成・ファイルを使った処理に使う。
差別化ポイント:
1. 40+モデルの切り替え
Claude Opus 4.6(高精度・高コスト)
Claude Sonnet 4.6(バランス)
GPT-4o(OpenAI)
Gemini 1.5 Pro(Google)
DeepSeek R1(推論タスク)
Llama 3.1(ローカル、Ollama経由)
── 同じ会話の中で切り替え可能
2. ファイル添付
PDFのドキュメントを貼って「要点を教えて」
CSVを貼って「この売上データを分析して」
コードファイルを貼って「レビューして」
3. チャットプリセット
「Technical Writer」モード → 技術文書を書くときの人格・指示を事前設定
「Code Reviewer」モード → コードレビュー観点で回答するよう設定
用途別のプリセットを複数作れる
4. チャット分岐(2025年追加)
会話の途中で別の仮説を試せる
「Aのアプローチで書いて」→「やっぱりBで」を別ブランチで試す
AI Commands
選択中のテキストに対して、ワンキーで操作を実行する。
プリビルドコマンド(30+)の例:
Fix Spelling and Grammar → 文法・スペルチェック修正
Improve Writing → 文章をより自然に
Make Shorter → 要約・短縮
Make Longer → 文章を膨らませる
Change Tone to Friendly → トーンをフレンドリーに変更
Translate to Japanese → 翻訳
Explain Code → コードを説明
Find Bugs → バグを探す
Create Summary → 要約を作成
カスタムコマンドの作成:
コマンド名:「Slack用に変換」
プロンプト:「このテキストをSlackの投稿として、
読みやすく箇条書きにし、
絵文字を適度に使ってください」
使い方:ドラフトを書く → 全選択 → ⌥ A → 「Slack用に変換」
コマンド名:「Issue本文を書く」
プロンプト:「このメモをLinear/GitHubのIssue本文として、
タイトル・背景・要件・受け入れ基準の形式で
書き直してください」
どのアプリでテキストを選択していても実行できる。ブラウザ内のテキスト、メモアプリのテキスト、IDEのコメント──すべてに適用できる。
AI Extensions(エージェント的操作)
2024年ベータとして登場し、2025年に拡充。自然言語で外部ツールを操作する機能だ。
従来(コマンドベース)
「Linear」と入力 → コマンドを選ぶ → フォームに入力 → 実行
AI Extensions(自然言語)
「来週までのLinearのIssueを全部完了ステータスに変えて」
「Slackの#generalに「本日のデプロイ完了」と送って」
「今日の残りのカレンダーをキャンセルして」
複数のAI Extensionsを組み合わせて複合タスクを実行できる。
例:「今日のスタンドアップを準備して」
→ Calendarを確認(今日の予定)
→ Linearで自分に割り当てられたIssueを取得
→ Slackで昨日の自分の発言を確認
→ これらをまとめたスタンドアップ本文をドラフト
CEOの発言(2025年):
「私たちはRaycastをAIがMac全体を制御できる基盤にしたい。写真のリネーム、ファイル整理、アプリ操作──これらをAIが実行する環境を作る。チャットではなく、実行だ。」
モデル選択の考え方
| ユースケース | 推奨モデル | 理由 |
|---|---|---|
| 素早い質問・翻訳 | Claude Haiku 4.5 / GPT-4o mini | 低コスト・高速 |
| コードレビュー・複雑な推論 | Claude Sonnet 4.6 / GPT-4o | バランス |
| 長文ドキュメント・高精度 | Claude Opus 4.6 | 最高精度 |
| 推論・数学 | DeepSeek R1 / o3 | 推論特化 |
| 最新情報が必要 | Perplexity Sonar | Web検索統合 |
| プライバシー重視 | Ollama(ローカル) | データ送信なし |
Raycastは複数のモデルを会話の中で切り替えられる。「まずHaikuで粗削りの答えを得て、不十分なら Sonnet に切り替える」という使い方が可能だ。
BYOK(Bring Your Own Key)
自分のAPIキーを登録して使うことも可能。
設定 → Advanced → AI → Add Provider
対応プロバイダー
・OpenAI API Key
・Anthropic API Key
・Google AI API Key
・OpenRouter(400+モデルへのゲートウェイ)
・Ollama(ローカルモデル)
月50回のAI使用制限があるFreeユーザーも、自分のAPIキーを使えば制限なく使える。「Proは不要だが、AIは使いたい」というユーザーがこの方法を選ぶ。
プライバシーの設計
Raycastは「ローカルストレージを基本」とするプライバシー設計をとっている。
- クリップボード履歴・スニペット・ノートはデフォルトでローカル保存
- Cloud Sync(Pro)は転送時・保存時に暗号化
- AIプロバイダーとの契約で「モデル学習への使用禁止」が明示されている
- ローカルモデル(Ollama)を使えば一切の外部通信なしで動作