第6章 営業・マーケター・オペレーション向け ── データ収集と自動化
営業・マーケターのブラウザ上トイル
営業・マーケターにとってブラウザは「リード発掘・情報収集・アウトリーチ」の場だ。
典型的なトイルは3種類に集約される。
- リード情報の収集コスト:LinkedInやWebからコンタクト情報を手動で取得してCRMに入力
- アウトリーチのコスト:毎回ほぼ同じ文面のメールや LinkedInメッセージをカスタマイズして送る
- 情報を横断するコスト:提案書・競合比較・市場調査で複数ページを行き来して転記する
リード獲得・CRM連携系
Apollo(LinkedIn + CRM連携)
解決するトイル:LinkedInのプロフィールを開いてはコピー、CRMに貼り付けるという作業を1人ずつ繰り返す。
Apolloの動作:
LinkedInのプロフィールページを開く
→ Apollo のサイドバーに以下が自動表示:
・メールアドレス(検証済み)
・電話番号
・会社名・業種・規模
・LinkedIn URL
「Add to CRM」ボタンをクリック
→ HubSpot / Salesforce に即登録
→ タグ・リスト・シーケンスに自動割り当て
効果:
1リードあたり3〜5分の手動入力が10秒に短縮。
100リード/日 × 3分 = 5時間/日 → 16分/日
Lusha
解決するトイル:見込み顧客の電話番号・メールが LinkedIn や会社サイトに記載されていない。
Lushaの機能:
LinkedInプロフィール上に Lusha バッジが表示される
→ クリックで以下を取得:
・個人メールアドレス
・直通電話番号
・会社の代表番号
・会社情報(業種・規模・技術スタック)
APIとの連携でCRMへの一括エクスポートも対応。
注意:LinkedIn Terms of Service に抵触する可能性があるため、
利用規約とプライバシーポリシーの確認が必要。
PhantomBuster(ブラウザ拡張 + クラウド)
解決するトイル:LinkedInの検索結果から100件のリード情報を一括で取得したい。
PhantomBusterのアーキテクチャ:
Chrome拡張機能 + クラウドサービスの組み合わせ
フロー:
1. 拡張機能を使ってLinkedInにログイン済みのセッションを認証
2. クラウド側の「Phantom(自動化ロボット)」が処理を実行
3. 検索結果の全プロフィールを巡回してデータ収集
4. CSVまたはHubSpot/Salesforceに直接エクスポート
実用例:
「東京勤務・IT企業・CTO職」でLinkedIn検索
→ PhantomBusterが全ページを巡回
→ 200件のリードリストが自動生成
注意事項と同様にLinkedIn TOS への配慮が必要。
アウトリーチ・テンプレート系
Magical(データ転送 + スニペット)
解決するトイル:
- 見込み顧客ごとに名前・会社名・業種をメールに差し込む作業が毎回手動
- LinkedInのメッセージ・Gmail・Salesforce で同じデータを繰り返し入力
Magical の「Transfer」機能:
タブ間でのデータ転送:
LinkedInのプロフィールを開く
→ GMail の作成画面を開く
→ Magical の "Transfer" で変数を差し込む
変数:{{first_name}}, {{company}}, {{title}}, {{industry}}
→ LinkedInのページから自動取得して本文に差し込み
テンプレート例:
件名: {{company}} 様の成長をご支援できるかもしれません
{{first_name}} 様
{{company}} が{{industry}}領域で急成長されていることを
LinkedInで拝見し、ご連絡申し上げました。...
→ LinkedInで "田中 一郎(株式会社ABC / HR Director)" を見た後、
Gmail で展開すると「田中様」「株式会社ABC」が自動入力される
Text Blaze(スニペット + 変数)
解決するトイル:毎回同じ定型メール・LinkedIn DM・サポート返信を書いている。
営業向けスニペット例:
/followup →
「先日はお時間をいただきありがとうございました。
{formtext: name=日時} の打ち合わせでお話しした件について、
詳しい資料をお送りします。
{formtext: name=資料の説明}
何かご不明点があればお気軽にご連絡ください。」
/linkedin-connect →
「はじめまして。{company} の {name} と申します。
{industry} 領域でご活躍の方々とつながらせていただきたく、
申請いたしました。何卒よろしくお願いいたします。」
文字入力すると自動展開。変数部分はその場でフォーム入力。
競合調査・市場リサーチ系
HARPA AI(価格・変化監視)
解決するトイル:競合製品の価格やランディングページが変更されても気づくのが遅い。
HARPA AI のページ監視機能:
設定:
URL: https://competitor.com/pricing
要素: .price-table (CSSセレクター)
チェック頻度: 毎日 9:00
通知: メール + Slack
動作:
→ 毎日指定時刻にページを確認
→ 前回取得と差分があったらアラート
→ 「プレミアムプランが $99 → $89 に変更されました」
という差分を通知
ユースケース:
競合製品の価格変更 / 競合サイトの機能追加
規制・法令ページの更新
EC商品の在庫回復通知
Bardeen(ページからスプレッドシートへ)
解決するトイル:競合調査・市場調査でWebページのデータを手動でスプレッドシートに転記している。
Bardeen の「Scraper」機能:
設定フロー:
1. スクレイピングしたいページを開く
2. Bardeen → Data Scraping → 要素を選択
3. 抽出するフィールドを指定(名前・価格・URL...)
4. Google Sheets / Notion / Airtable に出力先を設定
自動化フロー例:
「Capterra の CRM カテゴリページを開く
→ 全製品の名前・評価・レビュー数・価格帯を抽出
→ Google Sheetsの "競合調査" シートに追加」
手動転記: 50製品 × 2分 = 100分
Bardeen : 設定5分 + 実行3分 = 8分
Eコマース・購買支援系
Phia(最安値チェック)
解決するトイル:EC購入前に複数サイトで同じ商品の価格を比較するのに時間がかかる。
動作:
Amazonや主要ECサイトで商品を表示
→ Phia が自動で他サイトの価格を検索
→ 「このAmazonの商品、楽天で3,000円安いです」
と表示
Googleが2025年お気に入りChrome拡張のひとつに選定。
企業利用でのユースケース:
購買担当者が会社備品・ソフトウェアを調達する際、
複数ベンダーの見積もり比較を自動化。
オペレーション・業務自動化系
Bardeen(ワークフロー全般)
解決するトイル:「LinedInのプロフィール → CRM登録 → メール送信」のような複数ツールをまたぐフローを毎回手動でこなしている。
Bardeenのオートメーション例(実用):
例1:B2Bリードジェネレーション
トリガー: LinkedIn プロフィールページを開く
ステップ1: プロフィール情報(名前・会社・役職)を抽出
ステップ2: Hunter.io でメールアドレスを取得
ステップ3: HubSpot にコンタクトとして登録
ステップ4: 「新しいリード追加」をSlackに通知
例2:競合モニタリング
トリガー: 毎週月曜 9:00
ステップ1: 競合10サイトのPricingページを巡回
ステップ2: 価格情報を抽出
ステップ3: Google Sheetsの "競合価格履歴" に追記
ステップ4: 前週比で変更があった行をハイライト
コード不要で「Magic Box」に自然言語で指示を書くだけで
ワークフローが生成される(2025年のAI機能追加以降)。
営業・マーケター向け拡張機能マップ
graph TD
subgraph "リード獲得"
Apollo[Apollo<br/>LinkedIn→CRM<br/>メール取得]
Lusha[Lusha<br/>電話・メール特定]
PhantomBuster[PhantomBuster<br/>大量一括取得]
end
subgraph "アウトリーチ"
Magical[Magical<br/>変数差し込みテンプレート]
TextBlaze[Text Blaze<br/>スニペット管理]
end
subgraph "競合調査"
HARPA[HARPA AI<br/>価格・変化監視]
Bardeen[Bardeen<br/>Webデータ→スプレッドシート]
end
TOIL[営業・マーケターのトイル] --> リード獲得
TOIL --> アウトリーチ
TOIL --> 競合調査
コンプライアンスと注意事項
LinkedIn等のSNSからのデータ収集は、各サービスの利用規約(Terms of Service)に抵触する可能性がある。
確認すべき事項:
LinkedIn ToS: 自動化ツールによるデータ収集を禁止
→ アカウント停止のリスクがある
→ 「人間の操作を模倣する」設計のツールを選ぶことでリスク軽減
GDPR / 個人情報保護法:
EU居住者の個人情報を収集・保存する場合、
GDPRへの準拠が必要
実用上のガイドライン:
・1日あたりの取得件数を人間の行動範囲に抑える
・収集したデータの保存・利用目的を明確にする
・法人向けサービス(Apollo等)はSOC2/GDPRに準拠している